年収を下げて転職すると後悔する?――内定通知の「720万円」を見て、電卓を閉じた夜

Gmailを開く。

件名は、

「選考結果およびオファー条件のご案内」

面接はうまくいった。

仕事も面白そうだった。

上司になる人とも話が合った。

会社の成長性も悪くない。

勤務地も近い。

PDFを開く。

想定年収720万円。

今は980万円。

260万円下がる。

さっきまで「ここで働きたい」と思っていたのに、数字を見た瞬間、急に部屋が静かになります。

260万円。

月に直せば約21万7000円。

税引後なら差はもう少し小さい。

それでもデカい。

転職エージェントからは、

「中長期のキャリアを考えると非常に良い機会だと思います」

と来ている。

中長期。

便利な日本語です。

こちらは来月の住宅ローンを払います。

年収を下げて転職する人は、本当に失敗しているのか

まず検索してきた人向けに、普通の現実から見ます。

2025年の正社員転職率は7.6%で、マイナビの調査開始以降で最高水準でした。40代・50代の転職率も2021年以降上昇傾向です。転職後の平均年収は533.7万円で、転職前より平均19.2万円増えています。

ただし50代だけは平均4.5万円減少しました。

つまり、

転職=年収ダウン

ではない。

40代でも年収アップ転職は普通にあります。実際、2024年実績では40代男性の47.9%が転職後に年収アップし、平均増加額も34.4万円と比較的大きかった。

だから現在980万円なのに720万円を提示されたなら、

「40代だから仕方ない」

と雑に納得する必要もありません。

年収交渉する。

別企業も受ける。

現職に残る。

全部候補です。

ただ、今日考えたいのはもう少し変な問題です。

そもそも現在の980万円は、

何の値段なのでしょう。

給料は、自分一人の値段ではない

「市場価値」という言葉があります。

年収1000万円。

だから市場価値1000万円。

一見分かりやすい。

でも会社員の給料は、メルカリに出した自分へ付いた落札価格ではありません。

例えば大企業に15年いる。

社内システムを知っている。

業界を知っている。

重要顧客を知っている。

「あの案件なら法務の佐藤さんを先に通した方が早い」

まで知っている。

部下もいる。

役職もある。

社内での信用残高もある。

すると980万円になる。

ところが翌月、別企業へ行く。

法務の佐藤さんはいません。

社内イントラの場所も分からない。

誰が本当に意思決定しているのかも分からない。

昨日まで30秒で済んだことに半日かかる。

本人のIQが一晩で下がったわけではありません。

環境が変わった。

労働経済学では、人間の能力にも「持っていける部分」と「置いていく部分」がある

human capital、人的資本という言葉があります。

その中でも、

firm-specific human capital
企業特殊的人的資本

industry-specific human capital
産業特殊的人的資本

occupation-specific human capital
職業特殊的人的資本

のように、能力がどの範囲まで移転可能かを考える研究があります。

企業で長く働くことで得られる経験や知識には、その会社で特に高い価値を持つ部分があります。長期勤続による賃金プレミアムとspecific capitalの関係は古くから研究されており、企業ごとに経験や勤続へのリターンがかなり異なることも、大規模な雇用者・従業員データから確認されています。

つまり、

現在年収980万円

という数字には、

自分自身の能力
+業界経験
+職種経験
+今の会社への適応
+今の会社が払う賃金プレミアム
+現在の役職
+現在の交渉結果

などが混ざっている。

980万円全部を、段ボール箱に入れて次の会社へ発送できるわけではない。

高級寿司屋の大将を、いきなり別の厨房へ連れていく

有名寿司店の大将。

自分の包丁。

長年付き合った魚屋。

シャリの温度。

酢の配合。

店の動線。

客の好み。

全部分かっている。

夜になれば身体が勝手に動く。

その人を突然、知らない国の知らない厨房へ連れていく。

包丁も違う。

魚も違う。

スタッフは英語。

冷蔵庫の位置すら違う。

初日は少し遅いでしょう。

だからといって料理人として無能になったわけではありません。

逆に、本当に強い料理人なら数カ月後には適応する。

ここで二種類の能力が見えてきます。

今の厨房で猛烈に速い能力。

どの厨房へ行っても速くなれる能力。

似ています。

でも同じではない。

会社員も「今の厨房で速い」を、自分の能力全部だと思いやすい

15年間、同じ環境にいる。

仕事が速くなる。

当然です。

環境について大量に学習したから。

そして給料も上がる。

すると、

仕事が速い

評価が高い

年収980万円

自分の市場価値は980万円

という認識ができる。

転職。

720万円。

ショックです。

「俺は260万円も価値が低いのか?」

違う可能性があります。

相手企業はまだ、

あなたが自社環境でも980万円分動くか

を確認できていない。

だから価格が違う。

ここまで考えていたら、妙にAIの話に似てきます。

AIは、練習問題で100点を取っても褒めてもらえない

機械学習では、学習に使ったtraining dataで高得点を取るだけでは不十分です。

同じデータを覚え込めばいいからです。

scikit-learnの公式ドキュメントも、学習と評価を同じデータで行うことを methodological mistake と説明しています。

見たことのあるデータをただ覚えたモデルなら完璧なスコアを出せても、未知のデータでは役に立たない。

これがoverfitting、過学習です。

GoogleのMachine Learning Crash Courseでも、モデルの本当の価値は未知のexamplesへgeneralizeできるかにあると説明されています。

そこで、

training set

とは別に、

validation set
test set

を用意する。

知らない問題を解かせる。

初めて本当の性能が見える。

年収980万円が、training accuracyだったらどうする

少し嫌な想像です。

今の会社。

15年。

上司を知っている。

顧客を知っている。

業務を知っている。

評価制度を知っている。

社内政治まで知っている。

これは巨大なtraining setです。

そこでは98%のaccuracyが出る。

年収980万円。

しかし転職すると、

知らない会社。

知らない人。

知らない制度。

知らない商品。

test setです。

最初の評価。

720万円。

だったら年収ダウンは、

自分の価値が突然下落した

というより、

初めてtraining dataの外へ出した結果

なのかもしれません。

これは結構嫌な話です。

でも大事です。

人間が一番怖いのは、260万円失うことではないのかもしれない

表向きは金の問題です。

980万円から720万円。

260万円。

痛い。

でも、その下に別の恐怖が混ざることがあります。

「今まで高く評価されていた自分が、別の場所でも本当に通用するのか」

です。

これは金額より痛い。

今の会社が嫌いだと言いながら、辞められない。

給料が下がるから。

もちろんそうです。

でも本音のどこかでは、

外へ出た瞬間、自分についての採点基準が変わる

のが怖い場合もある。

現職980万円という数字は、金であると同時に自己評価です。

720万円のオファーは、給与明細ではなく人格に届いてしまう。

だから重い。

では、年収ダウンを受け入れれば成長できるのか

ここで自己啓発へ行ってはいけません。

「お金より経験です!」

と言われて年収を300万円下げ、毎日同じ仕事をしていたら普通に損です。

年収ダウン自体に価値はありません。

重要なのは、

何を買うために年収を下げるのか

です。

例えば、

980万円
→720万円

でも、

今しか使えない企業特殊スキル
→複数企業で通じる専門性

部下管理だけ
→事業責任

成熟産業
→成長産業

国内だけ
→海外市場

社内調整中心
→顧客・売上責任

一社依存
→独立可能なskill stack

へ移るなら、意味があります。

逆に、

仕事も同じ
業界も同じ
成長余地も同じ
労働時間は増える
福利厚生は悪化
将来年収も伸びない

なら、

「人生経験」

という綺麗な名前を付けただけの値下げかもしれません。

機械学習にはregularizationという少し奇妙な技術もある

モデルをtraining dataへ完璧に合わせすぎると、未知データに弱くなる。

だからモデルをあえて複雑にしすぎない。

学習時の数字を少し犠牲にしてでも、未知データに強いモデルを作る。

これがregularization、正則化の基本的な発想です。

つまり、

練習問題100点

を捨てて、

初見問題90点

を取る。

受験生なら少し怖い。

でも本当に欲しかったのは模範解答の暗記ではなく、未知問題を解く能力だった。

キャリアでも似た判断があり得ます。

現職年収を最大化する。

これ自体は正しい。

ただ、その最適化を20年続けた結果、

この会社でしか980万円を出せない

なら、かなりtraining dataへ寄っています。

一度720万円へ落ちても、

別環境で能力を再構築し、

次は900万円、

1200万円、

別会社でも、

独立しても、

また動く。

なら、長期的にはgeneralizationが上がっている。

「年収を下げる」は、現在の数字を捨てることではなく、別の数字を買うことがある

会社員は年収を一次元で見がちです。

980

720

だから、

-260万円。

終わり。

でも実際には、

今年の年収
将来の年収
失業確率
労働時間
勤務地
人的資本
成長率
選択肢
独立可能性
会社依存度

が同時に動きます。

企業買収でも、今期利益だけで会社を買いません。

将来cash flowを見る。

growthを見る。

riskを見る。

synergyを見る。

なのに自分の転職だけ、

今年のsalary一本

でDCFを終わらせる。

少し雑です。

年収980万円の成熟企業と、720万円の成長企業

仮に二つあります。

A社。

年収980万円。

昇給ほぼなし。

仕事内容固定。

会社固有業務が多い。

5年後も980万円。

B社。

年収720万円。

新しい職能。

事業成長。

成果次第で昇給。

別企業にも持ち出せる経験。

5年後の分布が広い。

どちらが高いでしょう。

今日ならAです。

5年後は分からない。

ここで重要なのは、

Bが必ず成功する

ではありません。

Bには失敗する可能性もある。

だから年収ダウン転職は、

損得計算

というより、

現在確定しているcash flowを捨てて、将来分布を買う意思決定

になります。

投資に近づいてきました。

しかも、待てば待つほど現在の給与が重くなることがある

40歳。

980万円。

まだ転職できる。

42歳。

1030万円。

45歳。

1100万円。

嬉しい。

でも外では800万円。

社内給与と社外価格のgapが広がる。

すると、

辞めたら300万円下がる。

もっと辞めにくい。

さらに残る。

社内経験が増える。

さらに会社へ適応する。

さらに辞めにくい。

これは一種のpath dependenceです。

高い給料が報酬であると同時に、退出コストになる。

Golden Handcuffs、黄金の手錠という言葉があるのもこのためです。

金色なので見た目は綺麗です。

でも手錠です。

だから年収ダウンのオファーは、嫌な健康診断にもなる

720万円。

断っていい。

もっと高い会社を探してもいい。

交渉してもいい。

ただ、その数字を見なかったことにはしない方がいい。

なぜ720万円なのか。

職務範囲が違うのか。

業界が違うのか。

役職が下がるのか。

企業規模が違うのか。

単に相手が安く買おうとしているのか。

それとも、今の980万円に現職固有のプレミアムがかなり乗っているのか。

他社も受ける。

900万円。

850万円。

1000万円。

複数取れば分布が見えてきます。

これは転職活動というより、

自分のcross-validation

です。

一社だけでは分からない。

本当に後悔するのは「年収を下げた人」ではない

年収980万円から720万円へ転職。

三年後。

仕事が面白い。

能力が増えた。

1000万円へ戻った。

たぶん後悔は小さい。

逆に、

980万円から850万円。

仕事は同じ。

成長なし。

人間関係も悪い。

三年後も850万円。

これは後悔する。

違いは、

いくら下げたか

ではありません。

下げた分で何を買ったか。

です。

年収ダウンは価格です。

商品ではない。

年収を下げて転職するということの、本当の怖さ

最初、980万円から720万円になる話でした。

260万円失う。

それが怖い。

でもここまで来ると、少し違って見えます。

現在の年収は、

自分という人間の絶対価格

ではない。

今いる会社、役職、業界、人間関係、長年の学習履歴との組み合わせに付いた価格です。

機械学習では、training setでどれだけ高得点でも、それだけではgeneralizationを証明できない。

未知データへ出して初めて分かる。

人間も同じなのかもしれません。

転職とは、会社を移ることである以前に、

自分をtest setへ出すこと

なのかもしれない。

だから怖い。

720万円という数字を見て、何を考えるべきか

安い。

そう思ったら、まず交渉すればいい。

別の企業も受ければいい。

980万円を維持できる転職先があるなら、その方がいい。

わざわざ給料を下げる必要はありません。

ただし、

「今より下がるから絶対に行かない」

だけで終わらせると、一つだけ分からないまま残ります。

自分が守ったのは、

980万円

なのか。

それとも、

980万円という点数を出してくれるtraining environment

なのか。

ここは似ていますが、かなり違います。

年収を下げて転職すると後悔するのか。

答えは、

年収を下げたことでは決まりません。

その260万円で、

別の環境でも動く自分

を買えたかどうかで決まる。

もし何も買えていないなら、高い授業料です。

でも、現職に過学習していた自分を一度外へ出し、どこへ行っても動く能力へ作り直せたなら、数字だけを見て「260万円損した」とも言い切れない。

木曜日、21時13分。

オファー720万円。

電卓には、

-2,600,000

と出ています。

数字は正しい。

ただ、電卓が計算していないものがかなり多い。

たぶん転職で一番怖いのは、年収が下がることではありません。

初めて知らない問題を解かされて、

今までの100点が、どこまで自分のものだったのか分かってしまうことです。


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西園寺貴文(憧れはゴルゴ13)#+6σの男

   




"make you feel, make you think."

 

SGT&BD
(Saionji General Trading & Business Development)

新たなるハイクラスエリート層はここから生まれる
         




Lose Yourself , Change Yourself.
(変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受け入れられる冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、見分ける知恵を与えたまえ。)
 
説明しよう!西園寺貴文とは、常識と大衆に反逆する「社会不適合者」である!平日の昼間っからスタバでゴロゴロするかと思えば、そのまま軽いノリでソー◯をお風呂代わりに利用。挙句の果てには気分で空港に向かい、当日券でそのままどこかへ飛んでしまうという自由を履き違えたピーターパンである!「働かざること山の如し」。彼がただのニートと違う点はたった1つだけ!そう。それは「圧倒的な書く力」である。ペンは剣よりも強し。ペンを握った男の「逆転」ヒップホッパー的反逆人生。そして「ここ」は、そんな西園寺貴文の生き方を後続の者たちへと伝承する、極めてアンダーグラウンドな世界である。 U-18、厳禁。低脳、厳禁。情弱、厳禁。