管理職になりたくないのは甘え?昇進辞令をもらった夜、仕事がひとつ消える

夕方5時47分。

上司に呼ばれる。

会議室のガラス扉を閉める。

「まだ内示だから誰にも言わないでほしいんだけど」

この時点で、だいたい分かります。

「来期から課長をお願いしたいと思っている」

ありがとうございます、と言う。

評価された。

給料も上がる。

名刺も変わる。

家に帰る。

冷蔵庫からビールを出す。

風呂に入る。

そして23時38分。

Googleで、

「管理職 なりたくない」

と検索する。

祝われる出来事のはずなのに、なぜ検索窓だけ葬式みたいになっているのでしょう。

管理職になりたくない人は、もう珍しくない

まず普通の答えです。

2026年1月に報じられたdodaの正社員1万5000人調査では、非管理職のうち「出世したくない」「どちらかといえば出世したくない」が58.5%。出世したい側の32.9%をかなり上回りました。

別のリクルートマネジメントソリューションズの2025年調査でも、一般社員の「管理職になりたくない」「どちらかといえばなりたくない」は6割超。理由には責任・業務負荷、報酬との釣り合い、ワークライフバランス、現場で専門性を発揮したい、といったものが並びます。

日本新聞協会の2026年調査でも、管理職を望まない理由の上位は「身近な管理職が大変そう」45.3%、「現場のプレーヤーとして仕事を続けたい」41.8%でした。

つまり、

責任が重い。

残業が増えそう。

割に合わない。

人の管理をしたくない。

現場が好き。

この辺は全部本当です。

ただ、一つだけ変なことがあります。

そもそも、なぜ「仕事ができるようになった人」へのご褒美が、「別の仕事をさせること」なのでしょう。

売れる営業マンを褒めて、営業をやめさせる

営業マンがいます。

年間売上トップ。

顧客をよく知っている。

新規開拓も強い。

表彰される。

そして翌年。

営業課長。

本人がやることは変わります。

予算。

1on1。

メンバー評価。

パイプライン管理。

採用。

勤怠。

コンプライアンス。

部下のトラブル。

営業会議。

Salesforceの数字が赤い。

月末のフォーキャスト。

「田中君、今月あと3000万どうする?」

昨日まで3000万円を売っていた田中さんが、今日から3000万円を売れと他人に言っています。

妙です。

サッカーで得点王になった人に、

「素晴らしい。来季から笛を吹いてください」

と言っているようなところがある。

これは本当に研究されている

1969年にローレンス・J・ピーターらが有名にした「Peter Principle、ピーターの法則」があります。

人は組織の中で昇進していき、やがて自分の能力が通用しない階層へ到達する、という話です。

ずっと管理職ジョークみたいにも扱われてきました。

ところが後年、かなり大規模な実証研究が出ました。

Alan Benson、Danielle Li、Kelly Shueは、131社、3万8843人の営業職を分析しました。

トップセールスほど昇進しやすい。

ところが昇進前の営業成績の高さは、昇進後に部下の売上を伸ばすmanager value addedとはむしろ負の関係にあった。

一方で、他の営業社員とのcollaboration experienceは管理職としての成果を予測するのに、昇進では営業成績ほど重視されていなかった。研究では、管理者適性をより重視する別の昇進ルールと比較すると、このミスマッチのコストはかなり大きいと推定されています。

つまり会社は、

営業が上手い

営業課長にする

を実際にやっていた。

でも、

営業が上手い

営業マンを上手くする

は別能力だった。

言われれば当たり前です。

なのに131社も集めると、当たり前ではなくなる。

では、会社はバカなのか

話はもう少しややこしい。

この研究自体、企業が単純に間違えているとは結論づけていません。

なぜなら昇進には、

最適なmanagerを配置する

以外の仕事もあるからです。

「成果を出せば昇進できます」

というインセンティブです。

トップ営業を昇進させず、

「君は営業として素晴らしすぎるので一生営業をお願いします。課長には今月7位だった鈴木君を上げます。彼の方が人を育てるのが上手そうなので」

と言ったら、理屈は通っています。

でも翌月から営業部の空気が少し変わりそうです。

昇進は人材配置であると同時に、報酬なのです。

給料。

役職。

権限。

Status。

Resumeに書けるtitle。

会社は一個の「課長」という箱を、

人を配置する装置

としても、

社員を頑張らせる賞品

としても使っている。

一個の商品に二つの仕事をさせている。

ここにひずみが出る。

ミシュランの店で、シェフを厨房から追い出したらどうなる

料理がものすごく上手い人がいる。

客が増える。

二号店。

三号店。

社員50人。

本人は有名になる。

成功です。

ところが最近、料理をしていない。

採用。

原価率。

シフト。

銀行。

家賃。

食材業者。

Instagram。

食中毒対策。

店長会議。

厨房に立つ時間がなくなる。

YouTuberも少し似ています。

一人で動画を作る。

人気が出る。

編集者を雇う。

マネージャー。

案件。

税理士。

法人化。

採用。

給与。

契約書。

いつの間にか、

動画を作って成功した人

が、

動画制作会社を経営する人

になっている。

成功すると、成功を作った行為から離れていくことがある。

これ、かなり奇妙な現象です。

「偉くなりたくない」の中には、もっと個人的なものが入っている

管理職になりたくない。

責任を負いたくない。

残業したくない。

部下の面倒を見たくない。

そう説明する人が多い。

でも本音をもう少し奥まで掘ると、

「今の仕事を取り上げないでくれ」

が混ざっている人もいるのではないでしょうか。

コードを書くのが好きだった。

顧客と話すのが好きだった。

デザインするのが好きだった。

研究するのが好きだった。

広告を作るのが好きだった。

商品を考えるのが好きだった。

それが上手くなった。

評価された。

会社から、

「よくできました。では来月から、あなた自身はあまりそれをやらないでください」

と言われる。

これは報酬なのでしょうか。

少し没収にも見えます。

スーツのポケットに、昔使っていた道具が残っている

管理職になって数年。

朝9時。

会議。

10時。

1on1。

11時。

人事評価。

午後は予算。

夕方は役員報告。

昔使っていたAdobe Illustratorのショートカットを、まだ指が覚えている。

昔なら一日中触っていた。

今は部下が作ったデザインをPowerPointに貼り、

「もう少しブランドトーン合わせようか」

と言う。

帰りの電車でBehanceを見る。

別に管理職が嫌いなわけではない。

給料も増えた。

部下もかわいい。

でも、ときどき自分が遠い。

会社の階段を上がっただけなのに、昔いた机が下の階に見える。

アポロ11号は、自分の一部を海へ落としながら月へ行った

1969年7月16日。

ケネディ宇宙センター。

Apollo 11を載せたSaturn Vが打ち上がります。

高さ363フィート。

第一段S-ICにはRocketdyne製F-1エンジンが5基。

合計約750万ポンドの推力で、巨大な機体を地面から持ち上げた。

とんでもない力です。

でも燃焼が終わると、第一段は切り離されます。

次に第二段S-IIの5基のJ-2エンジンが燃える。

それも仕事を終えると切り離される。

最後は第三段S-IVB。

NASAの記録にも、そのstage separationの過程が残っています。

月まで全部持っていかない。

上へ行くために、途中で自分の一部を捨てる。

ロケットはその方が合理的です。

燃料を使い切った巨大な第一段を月まで運んでも重いだけだから。

会社のキャリアも、妙に多段式ロケットに似ている

新人。

自分で作業する。

主任。

少し人を見る。

課長。

自分よりチーム。

部長。

複数チーム。

役員。

会社全体。

上へ行くほど、

自分で手を動かす。

一人の顧客を深く見る。

一個の商品だけ考える。

という昔の仕事を切り離していく。

課長になっても新人時代の仕事を100%続けていたら、課長の仕事はできません。

だからstage separationが必要になる。

ここまでは合理的です。

ただし一つだけ、Saturn Vと人間は違います。

第一段ロケットには感情がありません。

海へ落とされても、

「あれだけ頑張って750万ポンドの推力を出したのに」

とは思わない。

人間は思います。

出世とは「足し算」だと思っていた

普通、キャリアはこう見えます。

経験が増える。

給料が増える。

権限が増える。

部下が増える。

つまり足し算。

でも実際には、かなり引き算もあります。

現場時間が減る。

顧客との距離が伸びる。

専門作業が減る。

自由に作る時間が減る。

昔の同僚との関係が変わる。

部下になった人へ、昨日までのようには話せない。

上へ行く。

そのたびに、一段ずつ何かを切り離す。

すると「管理職になりたくない」という感情が、少し違って見えてきます。

上昇を嫌っているとは限らない。

切り離したくないものがある。

だから「向上心がない」は、問いを間違えている

管理職を断る。

「向上心ないの?」

と言われる。

でも、

数学が上手くなりたい人に、

「では研究室長になって、人事評価をしてください」

と言って、断ったら向上心がないのでしょうか。

プログラマーがもっと優秀なプログラマーになりたい。

営業マンがもっと強い営業マンになりたい。

デザイナーがもっと良いデザインを作りたい。

これは普通に上昇です。

ただし会社の組織図では、横に見える。

ここに認識のギャップがあります。

能力には何十方向もあるのに、組織図はだいたい一本の縦軸で描かれる。

だから、

成長したい

管理職になりたい

という人間が発生する。

実際、2026年卒のマイナビ調査でも「仕事のレベルは上げていきたいが、管理職にはなりたくない」が36.7%いました。

成長を拒んでいるわけではない。

成長方向を指定されたくない。

もっと怖いのは、昇進してから自分がそれに適応してしまうことかもしれない

最初は嫌だった。

課長になる。

一年。

二年。

会議に慣れる。

部下評価にも慣れる。

数字を見る。

役員と話す。

昔ほど現場へ行かなくなる。

そしてある日、若手が作ったものを見て、

「最近の若い奴は現場感がないな」

と言う。

いや、現場から一番遠いのは自分だったりする。

人間は環境に適応します。

だからstage separationは、外から切られるだけではありません。

自分でも昔の自分との接続を切っていく。

少しずつ軽くなる。

軽くなるから上へ行ける。

そして上から見る景色は、確かに広い。

ただ、ときどき地上の匂いが分からなくなる。

管理職になりたくないのは甘えなのか

甘えの場合もあるでしょう。

責任は一切取りたくない。

給料だけ上げてほしい。

嫌な仕事は全部他人に。

それなら話は別です。

でも「管理職になりたくない」という一文だけでは何も分かりません。

2026年の調査を見る限り、もう少数派の特殊な感情ですらない。

そしてPeter Principleの実証が示すように、「現在の仕事で優秀」と「管理職として優秀」はそもそも別物です。

だから本来聞くべきなのは、

「向上心がありますか?」

ではない。

「次の仕事をやりたいですか?」

です。

課長は賞状ではありません。

職業です。

昇進とは、上へ行くことではなく、自分の一部を置いていくことなのかもしれない

Saturn Vの第一段S-ICは、月へ行っていません。

Apollo 11を地面から持ち上げるという、たぶん一番派手な仕事をして、途中で切り離された。

それが失敗だったわけではありません。

むしろそれを捨てなければ、先へ行けなかった。

会社も似ています。

上へ行きたいなら、今の仕事の一部を手放さなければならない。

それ自体は悪くない。

問題は、

会社が捨てたいものと、

本人が捨てたいものが、

同じとは限らないことです。

「管理職になりたくない」

という言葉を、

責任から逃げたい

と訳していました。

でも人によっては、逆なのかもしれません。

今まで積み上げてきた仕事を、まだちゃんとやりたい。

好きだったものから、成功したという理由で追い出されたくない。

昇進を拒んでいるのではない。

自分のstage separationを拒んでいる。

そう考えると、あの夜23時38分に「管理職 なりたくない」と検索している人の気持ちも、少し違って見えます。

来期から課長。

給料は上がる。

肩書も上がる。

会社では「おめでとう」と言われる。

でも本人だけが気づいている。

明日から増えるものの話ばかりされて、

誰も、

今日で何が終わるのか

を教えてくれない。

ロケットなら、切り離した第一段は大西洋へ落ちます。

人間の場合はもっと面倒です。

昔の自分は落ちてくれません。

たまに、帰りの電車で隣に座っています。


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西園寺貴文(憧れはゴルゴ13)#+6σの男

   




"make you feel, make you think."

 

SGT&BD
(Saionji General Trading & Business Development)

新たなるハイクラスエリート層はここから生まれる
         




Lose Yourself , Change Yourself.
(変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受け入れられる冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、見分ける知恵を与えたまえ。)
 
説明しよう!西園寺貴文とは、常識と大衆に反逆する「社会不適合者」である!平日の昼間っからスタバでゴロゴロするかと思えば、そのまま軽いノリでソー◯をお風呂代わりに利用。挙句の果てには気分で空港に向かい、当日券でそのままどこかへ飛んでしまうという自由を履き違えたピーターパンである!「働かざること山の如し」。彼がただのニートと違う点はたった1つだけ!そう。それは「圧倒的な書く力」である。ペンは剣よりも強し。ペンを握った男の「逆転」ヒップホッパー的反逆人生。そして「ここ」は、そんな西園寺貴文の生き方を後続の者たちへと伝承する、極めてアンダーグラウンドな世界である。 U-18、厳禁。低脳、厳禁。情弱、厳禁。