SRI+、SCI、KSPワイド、Eagle Eye――食品・日用品メーカーのマーケターは「売上が落ちた」をどう分解しているのか
マーケティングの仕事というと、
広告を作る。
SNSを運用する。
ブランド戦略を考える。
消費者調査をする。
新商品を企画する。
こういうものを想像する人が多いと思います。
しかし、食品、飲料、酒、菓子、日用品、化粧品などのメーカーに入ると、突然かなり違う世界が出てきます。
SRI+
SCI
KSP-POS
KSPワイド
True Data
Eagle Eye
Dolphin Eye
ID-POS
金額PI
数量PI
販売店率
トライアル・リピート
期間併買
ブランドスイッチ
といった言葉です。
テレビCMを作るような華やかなマーケティングの裏側で、
メーカーの担当者がExcelを開いて、
「キユーピー450gの数量PIが落ちている」
「DgSだけ販売店率が20ポイント下がっている」
「トライアルは取れているのにリピートが付いていない」
「競合へのブランドスイッチが増えている」
みたいなことを見ています。
この世界は、一般的なマーケティングの本を読んでいてもあまり見えません。
しかし食品・日用品メーカーでは非常に重要です。
まず、メーカーは自社の売上だけ見ていても何も分からない
例えば自社のカップ麺が、
2025年 100億円
2026年 90億円
になったとします。
売上10%減。
ここで、
「ブランド力が落ちました」
「広告が弱かったです」
「若者離れです」
などと言い始めるのは早い。
なぜなら、
市場全体が20%縮小しているなら、自社はむしろ強くなっている
からです。
逆に市場全体が20%伸びているのに、自社だけ10%減なら相当まずい。
だからメーカーは、
自社POS
だけでなく、
市場POS
を買います。
その代表格の一つがインテージの、
SRI+
です。
SRI+は全国約6,000店舗の販売実績から国内全体の小売販売を推計する小売店パネルデータで、市場規模、シェア、売上構造、新商品の立ち上がり、流通提案などに使われています。
つまり、
「うちの商品はいくら売れたか」
ではなく、
「市場の中で、うちはどうなったのか」
を見る。
ここからメーカーのマーケティングが始まります。
KSP-POSという食品メーカー界隈の別世界
食品系になると、
KSP-POS
という名前も出てきます。
KSP-SPは食品POSデータを扱う企業で、
KSPワイド
という市場POS分析サービスを提供しています。
この辺から指標が独特になります。
例えば、
金額PI
数量PI
です。
PIはPurchase Indexなどと呼ばれ、ざっくり言えば来店客数などを基準化して、
客数の違いをならした上で、その商品がどれくらい売れているか
を見る指標です。
KSPワイドでは「金額/販売店千人」「金額/全店千人」などを金額PI相当として扱えます。
これがなぜ必要なのか。
Aスーパーでは1週間に10万人来店する。
Bスーパーでは1万人しか来ない。
A店で100個売れて、
B店で50個売れた。
単純な販売数量ならA店の勝ちです。
しかし来店客当たりで見ると、
B店の方が圧倒的に売れている。
つまり、
「売上が大きい店」と「商品が強い店」は別
です。
こういう補正をしないと、店舗規模の違いを商品の強さと勘違いします。
「売上が落ちた」を、そのまま会議に持っていかない
メーカー実務で面白いのはここです。
売上が落ちた。
では、
なぜ落ちたのか。
最低でも、
価格なのか。
数量なのか。
扱っている店舗が減ったのか。
扱っている店では売れているのか。
を分けます。
例えば、
商品Aの売上が前年比90%。
一見すると不振です。
しかし、
販売店率 100 → 70
数量PI 100 → 120
だったらどうでしょう。
置いてくれている店では、むしろ以前より売れている。
問題は消費者ではない。
配荷です。
営業問題です。
逆に、
販売店率 100 → 100
数量PI 100 → 70
なら、
棚にはある。
しかし客が買わなくなっている。
こちらはブランド、価格、商品、競合などの問題になります。
同じ、
「売上30%減」
でも対策が真逆です。
KSPの実データを見ると、この分解がかなり生々しい
KSP-SPが2025年に公開した食品スーパーとドラッグストアの比較を見ると、
金額PI
数量PI
平均価格
販売店率
を使って、マヨネーズ、袋麺、カップ麺、オリーブオイルなどの動きを分析しています。
例えば同レポートでは、
キユーピー マヨネーズ 450g
味の素 ピュアセレクトマヨネーズ 400g
サッポロ一番 塩らーめん 5食
日清食品 カップヌードル 78g
日清オイリオ BOSCOエキストラバージンオイル 456g
と、普通にJAN単品レベルで比較しています。
マーケティングというと、
「健康志向が高まっています」
「タイパ需要です」
「Z世代に刺さるブランドを」
みたいな話になりがちです。
しかしメーカーの会議では、
「DgSで平均価格が29円高く、数量PIが91になっている」
というレベルまで降ります。
こっちの方が、明日どうするかを決めやすい。
「値上げして売上が増えた」は成功とは限らない
これもPOSを見ると分かります。
商品価格を10%上げた。
すると、
金額売上は前年比105%。
会社の売上だけ見れば、
成功です。
しかし、
平均価格 110%
数量PI 95%
だったら、
値上げによって販売数量は落ちている。
さらに競合が、
平均価格 105%
数量PI 105%
ならかなり危ない。
売上金額は増えたのに、
消費者が競合へ逃げ始めている可能性があります。
逆に、
平均価格 110%
数量PI 100%
なら、
10%値上げしても販売数量がほぼ維持できた。
これはPricing Powerが相当強い。
つまりPOSを見ると、
値上げによる金額成長
と、
本当の需要成長
を分けられます。
KSP-POSでも実際に金額PI、数量PI、平均価格を組み合わせて値上げ影響を分析しています。
ところがPOSには「誰が買ったか」がない
ここで問題が出ます。
POSなら、
何月何日。
どの店で。
何の商品が。
何個。
何円で。
売れたか。
は分かる。
しかし、
誰が買ったのか
が分からない。
昨日カップヌードルを買った人と、
今日買った人が、
同じ人なのか別人なのか分からない。
そこで、
ID-POS
が出てきます。
ポイントカードなどの顧客IDとPOSを紐付ける。
True DataはPOSを「商品を軸としたデータ」、ID-POSを「人を軸としたデータ」と説明しており、ID-POSでは購入者属性やリピートなどを分析できます。
ここでマーケティングの景色がまた変わります。
True DataのEagle Eyeで突然「人」が見える
日本には、
True Data
という企業があります。
全国6,000万人規模のID-POSデータを扱うプラットフォームを持ち、消費財メーカー向けに、
Eagle Eye
Dolphin Eye
などを提供しています。
Eagle Eyeには、
ABCL分析
属性別購入者分析
直前期間購入者分析
直後期間購入者分析
期間併買分析
同時併買分析
トライアル・リピート分析
購入個数分布分析
トレンド分析
売上分解ツリー
顧客構造図
ブランド成長力マトリクス
前後購買分析
などの分析メニューがあります。
この名称だけ見ても、普通の広告マーケティングとはかなり違います。
新商品100万人購入でも「成功」とは限らない
例えば新しいお茶を発売した。
100万人が買った。
大成功。
とは限りません。
ID-POSなら、
その100万人のうち、
何人が初回だけで終わったのか。
何人が2回目を買ったのか。
を見られます。
True DataもID-POSによって初回購入と2回以上のリピート購入を識別できると説明しています。
例えば、
商品A:
100万人トライアル
10万人リピート
商品B:
50万人トライアル
25万人リピート
なら、
初速はA。
商品力はB。
という可能性があります。
AはテレビCMを大量投下して、
一度だけ買わせたのかもしれない。
Bは初回購入者こそ少ないが、
食べた人が戻ってきている。
つまり、
Trialを作る能力
と、
Repeatを作る能力
は別です。
広告は前者に強い。
商品そのものは後者に効く。
ここを分けないと、
広告を打った新商品の初月売上だけ見て「ヒット」と判断してしまいます。
SCIになると「店をまたいだ消費者行動」が見えてくる
さらにインテージには、
SCI
があります。
全国15〜79歳の男女70,000人から継続的に買い物データを収集する消費者パネルです。
ここでは、
購入率。
購入量。
購入頻度。
購入チャネル。
ブランドスイッチ。
併買。
トライアル。
リピート。
などを分析できます。
これが店舗POSと違うところです。
例えば、
マツモトキヨシではブランドA。
イオンではブランドB。
AmazonではブランドC。
を買った人がいたとします。
一つの小売チェーンのID-POSだけでは、
他チェーンで何を買っているかは基本的に見えません。
消費者パネルなら、
一人の消費者を店をまたいで追う
という考え方ができます。
ここから、
「本当の競合は誰なのか」
が見えてきます。
メーカーが思っている競合と、消費者の中の競合は違う
例えばメーカー側では、
ブランドAの競合をブランドBだと思っている。
同じ価格帯。
同じ棚。
同じカテゴリー。
ところがSCIを見ると、
Aをやめた客の多くがBではなく、
別カテゴリーのCへ移っている。
ということがあります。
インテージも消費者パネルによって、
AブランドからBブランドへのスイッチや、
ブランド同士の併買など、
消費者の中の競合実態
を分析できると説明しています。
つまり競合は、
メーカーが決めるものではありません。
同じ消費者の財布の中で代替されているもの
が競合です。
これはかなり重要です。
スーパーのバイヤー商談では「うちの商品が良いです」だけでは通らない
ここからメーカー営業とマーケティングが接続します。
例えば食品メーカーが、
イオン系。
イトーヨーカドー。
ライフ。
ヤオコー。
ウエルシア。
マツキヨココカラ。
などの小売企業へ商品を提案するとします。
当然、
「新商品なので置いてください」
だけでは弱い。
棚には限界があります。
1商品入れるなら、
何かを外さなければならない。
そこで市場データを使う。
例えば、
このカテゴリー自体が前年比115%です。
その中で自社ブランドは130%伸びています。
購入者は御社が弱い30代男性に多いです。
既存商品と併買率が低いのでカニバリが少ないです。
この商品を置くことでカテゴリー全体の購入者数が増える可能性があります。
という話にする。
つまり、
「うちの商品を売ってください」
ではなく、
「御社の棚全体が儲かります」
へ変える。
SRI+も流通提案への活用を用途として明示しています。
メーカー営業でデータが重要なのはこのためです。
小売側は「メーカーの売上」ではなく「棚の生産性」を見る
メーカーは、
自社商品を置いてほしい。
しかし小売側には関係ありません。
棚1メートルには限界がある。
冷蔵ケースにも限界がある。
SKU数にも限界がある。
だから小売側が知りたいのは、
この商品を棚に入れることで、その棚全体の利益がどう変わるのか。
です。
ここで、
販売数量。
粗利。
PI値。
回転。
客単価。
併買。
新規顧客。
カテゴリー貢献。
などが出てくる。
商品Aが年間1億円売れる。
すごい。
しかし商品Aを置くために外した商品Bが1.2億円売れていたなら、
棚全体ではマイナスです。
だからメーカーは、
自社商品の売上だけではなく、
カテゴリー全体にどういう増分を生むのか
を説明しなければならない。
ここからCategory Managementの発想につながります。
「シェアが下がった」原因も最低3種類ある
例えばシェア20%から15%へ低下した。
普通ならブランド力低下と思う。
しかし実務では少なくとも、
1. 配荷の問題
扱う店舗が減った。
2. 店頭回転の問題
置いてある店では売れなくなった。
3. 市場構造の問題
自社が弱いチャネルだけ急成長した。
を分けます。
例えば、
食品スーパーではシェア25%。
ドラッグストアではシェア5%。
昨年は市場の80%がスーパーだった。
今年はドラッグストアが急成長した。
すると、
各チャネル内シェアが変わらなくても、
全体シェアは下がります。
これはブランド力低下ではありません。
チャネルミックス問題
です。
対策はCMではない。
ドラッグストア攻略です。
「若者に売れていない」も雑すぎる
ID-POSを見ると、
20代購入率が低い。
そこで、
「TikTokやりましょう」
となりがちです。
しかし、
20代の来店者自体が少ない店のデータかもしれない。
あるいは、
トライアルは多いがリピートがないのかもしれない。
そもそもカテゴリー自体を20代が買わないのかもしれない。
ブランドAだけ買わないのかもしれない。
競合Bへスイッチしているのかもしれない。
同じ、
「20代が弱い」
でも、
打ち手は全部違います。
マーケティング実務で重要なのは、
データを増やすことより、
どのレベルまで問題を分解するか
です。
広告代理店とメーカーのマーケターでは「データ」の意味が違う
広告代理店なら、
CTR。
CPC。
CPM。
CVR。
CPA。
ROAS。
を見る。
メーカー側ではそれに加えて、
SRI+。
SCI。
KSPワイド。
ID-POS。
Eagle Eye。
自社出荷。
小売POS。
市場シェア。
販売店率。
PI値。
トライアル。
リピート。
ブランドスイッチ。
まで見る。
だからメーカーでは、
広告のROASが良かったのに商品が育たなかった
ということが普通に起こります。
広告によってTrialは取れた。
しかしRepeatが付かなかった。
あるいは、
消費者には好評だった。
しかし配荷が増えなかった。
あるいは、
配荷された。
しかし棚位置が悪かった。
あるいは、
売れた。
しかし特売時しか動かなかった。
「広告が成功したか」
だけでは商品ビジネス全体の成功は判定できません。
[メーカーのマーケティングは、かなり「探偵」に近い
売上が落ちた。
なぜ?
SRI+を見る。
市場全体なのか、自社だけなのか。
KSPを見る。
価格なのか数量なのか。
販売店率を見る。
配荷なのか店頭回転なのか。
ID-POSを見る。
購入者数なのか購入頻度なのか。
Eagle Eyeを見る。
TrialなのかRepeatなのか。
SCIを見る。
誰から誰へブランドスイッチしているのか。
チャネルを見る。
SMなのかDgSなのかECなのか。
最終的に、
「売上が落ちました」
という一つの現象を、
何段階にも分解して原因を潰していく。
だから優秀なメーカーのマーケターは、
「消費者インサイトを考える人」
だけではありません。
かなりの部分、
市場データを使って故障箇所を特定する人
でもあります。
そして、日本の消費財マーケティングには「裏側の共通言語」が存在する
表に見えるのは、
テレビCM。
パッケージ。
新商品。
SNSキャンペーン。
タレント。
しかし裏側では、
インテージ SRI+
インテージ SCI
i-SSP
KSP-POS
KSPワイド
MS3
True Data
Eagle Eye
Dolphin Eye
POS
ID-POS
金額PI
数量PI
平均価格
販売店率
購入率
購入頻度
Trial
Repeat
Brand Switch
併買
という数字を見ながら、
「何が壊れているのか」
を探しています。SRI+は市場・シェアや新商品評価、SCIは消費者購買行動、KSP-POSは食品市場のPOS分析、True Dataは大規模ID-POS分析と、それぞれ見る断面が違います。
だから、
「マーケティングを勉強したい」
と言って、
STP、
4P、
3C、
AIDMA、
AISAS、
だけ覚えても、
実際のメーカーへ入ると突然知らない単語だらけになります。
実務では、
戦略フレームワークより先に、「先週このJANがどこで、何円で、誰に、何回売れたのか」を延々見る人たちがいる。
そして数千億円規模の消費財ビジネスは、かなりの部分、こういう地味な数字の積み重ねで動いています。
テレビCMより、こっちの方がマーケティングの実態に近い会社もあります。
===
![]() |
![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() ![]() ![]() ![]() |
"make you feel, make you think."
SGT&BD
(Saionji General Trading & Business Development)
説明しよう!西園寺貴文とは、常識と大衆に反逆する「社会不適合者」である!平日の昼間っからスタバでゴロゴロするかと思えば、そのまま軽いノリでソー◯をお風呂代わりに利用。挙句の果てには気分で空港に向かい、当日券でそのままどこかへ飛んでしまうという自由を履き違えたピーターパンである!「働かざること山の如し」。彼がただのニートと違う点はたった1つだけ!そう。それは「圧倒的な書く力」である。ペンは剣よりも強し。ペンを握った男の「逆転」ヒップホッパー的反逆人生。そして「ここ」は、そんな西園寺貴文の生き方を後続の者たちへと伝承する、極めてアンダーグラウンドな世界である。 U-18、厳禁。低脳、厳禁。情弱、厳禁。



