会社員が300万円で会社を買うのは本当に可能?――ゼロから起業せず「社長になる」個人M&Aの現実
「会社を作る」のではなく、「会社を買う」。
普通に会社員をしていると、あまり考えない人生ルートだと思います。
独立したければ起業する。会社を作り、商品を作り、客を集め、ゼロから売上を作る。
ところが、もう一つ方法があります。
すでに客がいて、売上があり、設備があり、場合によっては従業員までいる会社や事業を、そのまま買う。
個人M&Aです。
三戸政和氏の「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という本が大ヒットしたことで、この方法を知った人も多いでしょう。
しかし本当に300万円で会社など買えるのでしょうか。
結論から言えば、買えます。
ただし、
「300万円を払えば、毎年1000万円儲かる優良会社の社長になれる」
という話では全くありません。
むしろ、300万円という数字の中身を理解しないで会社を買うと、とんでもないものを引き継ぐ可能性があります。
本当に300万円以下の会社や事業は売っている
2026年8月現在、M&AプラットフォームTRANBIには「買収予算300万円以下」の案件を検索するページがあります。
実際に掲載されている案件を見ると、売却希望価格140万円の買取店事業、150万円のベーカリー、300万円のネイルサロンなどがあります。
さらに1円、0円という案件すら存在します。
もちろん、これは「売却希望価格」です。実際の成約価格とは限りませんし、仲介手数料などが別に必要な案件もあります。
しかし、
「個人が数百万円で買える事業なんて存在しない」
というわけではありません。
中小企業庁も、後継者のいない会社を「創業を希望する個人」がM&Aによって引き継ぐことを、正式な事業承継の一類型として説明しています。
つまり、
会社員
↓
退職
↓
ゼロから起業
だけではありません。
会社員
↓
既存事業を買う
↓
経営者になる
というルートが本当に存在します。
ただし「会社を買う」と「事業を買う」は違う
ここを最初に理解した方がいいです。
M&Aサイトに「会社を買う」と書いてあっても、実際には大きく二種類あります。
一つは株式譲渡です。
会社Aの株式をオーナーから買い、会社Aそのものの所有者になる。
会社そのものは残ります。
社員も会社Aに雇われたまま。取引契約も原則として会社Aに残る。銀行口座も会社Aのものです。
変わるのは株主です。
もう一つは事業譲渡です。
会社そのものを買うのではなく、
店舗。
設備。
在庫。
Webサイト。
顧客。
ブランド。
営業権。
など、特定の事業だけを引き継ぎます。
M&Aプラットフォームで数十万円、数百万円で出ている案件には、この事業譲渡もかなりあります。
つまり「300万円で会社を買う」と一言で言っても、
法人そのものを買うのか。
事業だけ買うのか。
で意味が全く違います。
なぜ300万円で売る会社が存在するのか
ここが面白いところです。
例えば年間300万円の利益が出る事業なら、300万円で売るくらいなら、オーナーがあと一年経営すればいいように思えます。
しかし現実には、それでも売りたい人がいます。
理由はいろいろあります。
高齢になった。
後継者がいない。
病気になった。
別事業へ集中したい。
引っ越したい。
夫婦で経営していたが離婚する。
資金繰りが苦しい。
業界の先行きが悪い。
経営そのものに疲れた。
単純にもうやりたくない。
会社には「金融商品」と違う性質があります。
株なら売却ボタンを押せば終わります。
しかし小さな会社は、オーナー自身が毎日働かなければ回らないことがあります。
すると、
「黒字だから持っていたい」
とは限りません。
以前「黒字事業を売却する経営者」について書いたのもこの問題です。
黒字かどうかと、持ち続けたいかどうかは別です。
日本には「会社を残したいが後継者がいない」という売主がいる
中小企業庁の2025年版中小企業白書を見ると、後継者不在率は改善しているものの、中小企業経営者の高齢化は依然として大きな問題です。
中小企業経営者は60歳以上が過半数を占めています。小規模事業者では、70代以上でも「事業承継したいが後継者は未定」という経営者が一定数残っています。
息子は会社を継がない。
社員にも継ぐ人がいない。
しかし客はいる。
設備もある。
取引先もある。
できれば廃業したくない。
そこで第三者へ売る。
この供給があるから、個人M&A市場が成立します。
300万円で買えるのは「300万円の価値しかない会社」なのか
必ずしもそうではありません。
M&Aの価格は不動産ほど単純ではありません。
売主が高齢で早く辞めたい。
買い手候補がほとんどいない。
地方にある。
特殊な技術が必要。
オーナー自身に売上が依存している。
会社を閉じるにも金がかかる。
このような事情があれば、価格は下がります。
だから、企業の「価値」と「売却可能価格」は一致しないことがあります。
ここには市場の流動性があります。
1000万円の利益を出す能力があっても、それを運営できる買主が一人しかいなければ、高く売れないこともある。
逆に誰でも欲しい事業なら競争入札になり、価格は上がります。
会社にも市場があります。
しかし「安い会社」には安い理由がある
ここを忘れてはいけません。
300万円で売っている。
これは、
300万円でお得な会社が買える
という意味ではありません。
むしろ最初に考えるべきなのは、
「なぜ300万円なのか」
です。
例えば売上3000万円、利益500万円の飲食店が300万円で売られていたとします。
一見、非常に安い。
しかし詳しく見ると、
オーナーが年間3000時間働いている。
店長がいない。
設備が古く、来年1000万円の改装が必要。
店舗賃貸契約があと1年。
主要顧客が一社だけ。
社会保険料に未納がある。
従業員が買収後に辞める。
という可能性があります。
価格が安いこと自体は、投資理由にはなりません。
一番危険なのは「会社を買った」のではなく「仕事を買った」ケース
個人M&Aで私はここが非常に重要だと思います。
例えば300万円で会社を買いました。
年間利益は500万円あります。
ものすごく儲かるように見えます。
しかし前オーナーが、
営業。
接客。
仕入れ。
経理。
クレーム対応。
採用。
掃除。
まで全部やっていた。
年間3000時間働いていた。
すると、この500万円は本当に「会社の利益」でしょうか。
実際には、
オーナー自身の労働に対する給料
が利益の中に混じっています。
自分が年間3000時間働かなければ500万円残らないなら、
300万円で資産を買った
というより、
300万円払って自分の仕事を買った
可能性があります。
これは全く違います。
「オーナーが消えても利益が残るか」を見る
だから小さな会社を買うなら、
売上はいくらか。
利益はいくらか。
だけでは足りません。
重要なのは、
「売主が明日いなくなっても、この利益は残るのか」
です。
例えば年間利益500万円。
しかし売主がやっている仕事を代わりの店長へ任せると、人件費600万円。
すると実質利益はマイナス100万円です。
逆に年間利益300万円でも、社員だけで会社が回っていて、オーナーは月に数時間しか働いていない。
こちらの方が「事業」として価値が高い場合があります。
個人M&Aでは、会計上の利益以上に、
オーナー依存度
を見る必要があります。
1円の会社が存在する理由
M&Aサイトを見ると、本当に「1円」という案件があります。
では1円払えば会社が手に入るのか。
形式上はそういう案件もあります。
しかし、
1円だから無料同然で得をする
とは限りません。
例えば会社に、
借入金5000万円。
老朽設備。
赤字店舗。
長期リース。
将来必要な設備投資。
従業員。
解約しにくい契約。
が残っていたらどうでしょう。
株式を1円で取得しても、その会社の経済的問題まで消えるわけではありません。
むしろ売主が、
「金はいらないから、この会社を引き取ってほしい」
という状態だから1円なのかもしれません。
不動産でも、無料でもらえる土地が必ずしも得ではありません。
固定資産税や管理費がかかるからです。
会社も同じです。
300万円で会社を買っても、必要資金が300万円とは限らない
ここもかなり重要です。
例えば買収価格300万円。
ところが買収後に、
運転資金500万円。
設備更新300万円。
専門家費用。
登記費用。
システム移行。
店舗保証金。
採用費。
などが必要になった。
すると必要資金は300万円ではありません。
「買収価格」と「買ったあとに必要な金」は分けて考える必要があります。
会社は買った瞬間から毎月金が出ていきます。
給料。
家賃。
仕入。
社会保険。
広告費。
借入返済。
売掛金の回収より先に支払いが来れば、黒字会社でも現金が必要になります。
ここで出てくるのが運転資本です。
以前書いたNWC Pegも、巨大なM&Aではこの問題を契約上調整する仕組みでした。
会社は、株式を買っただけでは動きません。
中に運転するための資金が必要です。
会社を買う金は借りられるのか
場合によっては可能です。
日本政策金融公庫には「事業承継・集約・活性化支援資金」があり、株式や事業用資産の取得など、M&A・事業承継に必要な資金を対象にしています。
さらに日本公庫は、後継者のいない企業と事業を譲り受けたい人をつなぐ事業承継マッチングまで無料で行っています。
「継ぐスタ」と呼ばれる、既存事業を引き継いで創業する人向けの仕組みもあります。
つまり国側も、
創業=ゼロから会社を作る
だけではなく、
創業=誰かの事業を引き継ぐ
というルートを用意しています。
ゼロから起業する場合と何が違うのか
例えばラーメン屋を始めるとします。
ゼロからなら、
店を探す。
内装工事をする。
厨房機器を買う。
メニューを作る。
仕入先を探す。
社員を採用する。
Googleマップへ登録する。
客を集める。
口コミを作る。
ここから始まります。
一方、既存店舗を買えば、
店舗がある。
設備がある。
客がいる。
口コミがある。
仕入先がある。
従業員がいる。
売上実績がある。
状態から始められる場合があります。
つまりM&Aでは、
「ゼロから1を作るリスク」
の一部を金で買い取ります。
ただし既存事業には「他人の過去」も付いてくる
もちろんメリットだけではありません。
既存企業を買うということは、
過去の契約。
過去の社員。
過去の顧客。
過去の税務。
過去のトラブル。
過去の設備投資。
過去の評判。
まで引き継ぐ可能性があります。
ゼロから起業すれば、過去はありません。
会社を買えば過去があります。
だからM&Aではデューデリジェンスを行います。
財務。
税務。
法務。
人事。
事業。
などを調べ、
「この会社には何が埋まっているのか」
を確認します。
小さな会社だからデューデリジェンス不要、ではない
むしろ小さい会社ほど注意した方がいい場合があります。
大企業なら、
経理部。
人事部。
法務部。
監査法人。
などがいます。
しかし社員3人の会社なら、社長が全部やっているかもしれません。
個人と会社の金が混ざっている。
現金売上の管理が曖昧。
在庫が帳簿と合わない。
契約書がない。
有給休暇管理が曖昧。
未払残業がある。
社長個人の人脈だけで売上が成立している。
こういう会社もあり得ます。
300万円の買収だから、300万円だけ失うとは限りません。
買収後の問題まで含めれば損失はそれ以上になります。
最低でも「売上」より先に見るもの
私なら小さな会社を見るとき、売上高だけではほとんど判断しません。
むしろ確認したいのは、
営業利益は本当に残っているか。
オーナーの給料を正常化したら利益はいくらか。
現金は残るか。
借金はいくらか。
売掛金は回収できるか。
在庫は本当に売れるか。
主要顧客一社への依存度は高くないか。
売主がいなくなったら顧客も消えないか。
社員は残るのか。
設備更新はいくら必要か。
賃貸契約を引き継げるか。
許認可を引き継げるのか。
税金・社会保険などの未払はないか。
です。
売上1億円という数字は派手です。
しかし1億円売って1円も残らない会社もあります。
「なぜ売るのですか?」が最重要質問になる
会社を買うなら、売主に必ず聞きたい質問があります。
なぜ売るのか。
です。
高齢で引退。
後継者不在。
別事業へ集中。
こういう理由なら理解できます。
しかし、
利益500万円。
成長中。
社員が勝手に回してくれる。
設備投資不要。
将来性抜群。
なのに300万円で売ります。
と言われたら、むしろ疑問を持った方がいい。
そんな素晴らしい資産なら、なぜ本人が持ち続けないのか。
投資では、
「なぜ自分だけが安く買えるのか」
という問いが重要です。
M&Aも同じです。
会社の値札を見るより「売主が何から逃げたいのか」を見る
これは少し違う見方です。
会社の値段は、その会社の価値だけで決まるわけではありません。
売主側の事情も価格を作ります。
70歳で今月にでも引退したい。
家族は誰も継がない。
廃業すると設備撤去費がかかる。
社員の雇用だけは守りたい。
なら、
「高く売りたい」
より、
「誰かに引き継いでほしい」
が優先されることがあります。
ここで初めて、普通なら考えにくい価格が発生します。
小規模M&Aには、金融市場とは違う歪みがあります。
会社員のまま会社を買うことはできるのか
これもケースによります。
法律上、会社員だから他社株式を所有できないという一般的な禁止はありません。
しかし実際には、
勤務先の副業規定。
競業避止。
利益相反。
役員就任の扱い。
本業への影響。
などを確認する必要があります。
また会社を所有することと、経営することも別です。
社員が自走している会社ならオーナーとして保有できる可能性があります。
しかし従業員ゼロ、社長が毎日店舗に立っている会社を買えば、次の日から自分が働かなければ会社が止まります。
だから、
「会社員でも買えるか」
より、
「買ったあと誰が経営するのか」
を先に考えた方がいい。
「社長になる」と「資本家になる」も違う
会社を買う話には、
社長になれる。
資本家になれる。
という魅力的な言葉が出てきます。
しかし実際には三段階あります。
自分が現場で働く。
経営する。
所有する。
これは別です。
小さな会社ほど三つが同じ人物になっています。
オーナーであり、社長であり、一番働く社員でもある。
会社が大きくなるほど分離できます。
社員が現場を動かす。
経営者が経営する。
株主が所有する。
だから個人M&Aを考えるなら、
「会社を買えるか」
だけでなく、
自分はどの位置に入りたいのか
まで考えた方がいい。
300万円の会社を買うより重要なこと
結局、一番重要なのは値段ではありません。
300万円の会社だから買う。
ではない。
300万円払って、
何を手に入れるのか。
です。
年間利益。
顧客。
社員。
技術。
ブランド。
店舗。
Webサイト。
検索順位。
取引先。
許認可。
設備。
ノウハウ。
時間。
その中の何を買っているのか。
そして、それはゼロから作った場合いくらかかるのか。
ここまで比較して初めて、「300万円が安いか」が分かります。
起業には「作る」以外に「買う」がある
普通の会社員が独立について考えると、
何を売ろう。
どうやって客を集めよう。
会社をどう作ろう。
とゼロから考えます。
しかし社会には、すでに何十年も客を持ち、設備を持ち、技術を持ち、売上を持っているのに、
「次にやる人がいない」
という会社があります。
そこへ後から入る。
これは、ゼロから起業するのとは全く違うゲームです。
もちろん簡単ではありません。
安い会社には安い理由があります。
買った会社がそのまま儲かる保証もありません。
むしろ300万円の案件ほど、売主依存、規模、収益力、運転資金、設備、契約などを細かく見る必要があります。
しかし重要なのは、
「そんな方法がある」
ということです。
起業する。
転職する。
会社に残る。
普通はこのくらいしか考えません。
しかし、
すでに存在する会社を買う
という選択肢も社会には存在します。
個人M&Aを知る面白さは、「300万円で社長になれる」という夢のある話だけではありません。
会社そのものが、売ったり買ったりできる資産である。
この事実を知ることで、会社を見る景色そのものが少し変わることだと思います。
会社員として毎日「会社の中」にいると、会社は巨大で動かせない存在に見えます。
しかし資本市場側から見ると、その会社そのものが取引対象です。
働く場所だった「会社」が、突然「買えるもの」に見える。
ここから先がM&Aの世界です。
既存記事「黒字事業を売却する経営者――儲かっているのになぜ会社を売るのか」では売主側から、「M&Aの買収価格は100億円で決まっていない――Locked Box、NWC Peg、Debt-like Itemsの実務」では買収価格の裏側から、さらにこの世界を掘っています。
また、実際に会社を買うなら、相手企業をどう調べるのかという問題も出てきます。
帝国データバンクの評点は何点なら高い?――40点・50点・60点・70点の企業は何が違うのか
東京商工リサーチ(TSR)の評点は何点なら高い?――50点・60点・80点の意味と帝国データバンクとの違い
会社は、働く場所であると同時に、売買できる資産でもあります。
この視点を一度持つと、会社員として見ていた「会社」とはかなり違うものが見えてきます。
===
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"make you feel, make you think."
SGT&BD
(Saionji General Trading & Business Development)
説明しよう!西園寺貴文とは、常識と大衆に反逆する「社会不適合者」である!平日の昼間っからスタバでゴロゴロするかと思えば、そのまま軽いノリでソー◯をお風呂代わりに利用。挙句の果てには気分で空港に向かい、当日券でそのままどこかへ飛んでしまうという自由を履き違えたピーターパンである!「働かざること山の如し」。彼がただのニートと違う点はたった1つだけ!そう。それは「圧倒的な書く力」である。ペンは剣よりも強し。ペンを握った男の「逆転」ヒップホッパー的反逆人生。そして「ここ」は、そんな西園寺貴文の生き方を後続の者たちへと伝承する、極めてアンダーグラウンドな世界である。 U-18、厳禁。低脳、厳禁。情弱、厳禁。



